限定承認のメリットとデメリット

 
限定承認とは,亡くなった方の資産の範囲で負債(借金,債務)を支払う,という手続です。
家庭裁判所に申し立てて受理されて,手続きが開始されます。

亡くなった人は,その人の責任で負債(借金,債務)を負ったのであり,反対に,債権者は亡くなった人と合意して,その人とその人の財産を信用してお金を貸したはずです。
まさか,後日,相続されることを前提として,相続人とその資産を宛てにしてお金を貸した訳ではないでしょう。
よって,限定承認は,相続の形態として最も原則的,本来あるべき姿であると考えられます。

しかし,限定承認は,ほとんど用いられていません。
それは,以下のデメリットがあるからと思われます。
 

1 限定承認のデメリット

① 限定承認は相続人全員でしなければならないとされていること

相続人全員で限定承認をしますと,家裁から選任された相続財産管理人が,資産と負債(借金,債務)を管理し,管理人において資産を換金して負債(借金,債務)の返済に充てることになります。
これは相続放棄でも同じなので,②のデメリットを甘受してまで相続放棄をすることはないこと。
 

② 限定承認をするとみなし譲渡所得税が発生し,納税が必要なこと

単純承認の場合、被相続人が取得した状態を相続人が引き継ぎます。

しかし,限定承認をした場合、被相続人が相続開始日にすべての資産を相続人に時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得税が課されます。
譲渡取得税は,譲渡価格(この場合「相続開始日の時価」)から取得費、譲渡費用を差し引いた額に課税されます。

そこで,譲渡取得税が発生するものは,時価が上がったとみられる,古くから所有している不動産が中心となります。
よって,自宅不動産(住んでいる家)について譲渡取得税が発生することが多いと思われます。

その税率は,以下のとおりです。
長期譲渡所得(譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの)は15%
短期譲渡所得(譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のもの)は30%
(別に平成49年まで復興特別取得税2.1%)
 
なお,住民税は,被相続人に翌年1月1日現在に住所がないため課税されません。
また,限定承認は,親族間売買として、居住用財産の3,000万円特別控除などの優遇制度は適用されません。

この譲渡所得税は、被相続人の債務となり、相続税の計算上債務控除の対象になります。
この譲渡所得は、被相続人の準確定申告(相続の開始があったことを知った日から4ヵ月以内)する必要があります。
 

2 限定承認のメリット

① 自宅不動産(住んでいる家)を確保できます

相続人が相続放棄をしますと,被相続人が所有し,相続人と被相続人が居住していた自宅不動産(住んでいる家)は,次順位の単純承認した相続人が所有することになりますので,明け渡さなければなりません。

もし相続人全員が相続放棄をすると,自宅不動産(住んでいる家)に担保権が設定されている場合は競売されますし,担保権が設定されていない場合は,相続財産管理人が選任され,管理人において自宅不動産(住んでいる家)を含む財産を処分して債権者への配当に供します。

つまり,担保権が設定されていようが,いなかろうが家,自宅不動産(住んでいる家)は明け渡さなければなりません。
よって,自宅不動産(住んでいる家)を残したいという希望がある方は,単純に相続放棄をしてはいけないということになります。

そして,自宅不動産(住んでいた家)を維持するためのいくつかの方法としていくつか考えられます。

a全員が相続放棄をして,自宅不動産(住んでいる家)を取得したい人が相続財産管理人から買い受ける

b限定承認を申立て,自宅不動産(住んでいる家)を守る

aの場合,全員が相続を放棄してくれるか,全員が放棄してくれたとしても,相続財産管理人から買い取らなくてはならないことになります。
相続財産管理人は,債権者の目を気にしますので,買い取れるかはわかりません。
買い取れなかったら後の祭りです。

bの場合であれば,他の方には相続放棄してもらい,自宅不動産(住んでいる家)を取得したい人だけが限定承認をすると,相続財産管理人がつかないことになります。
こうすると,自宅不動産(住んでいる家)を取得したい人主導で限定承認の手続きをすすめ,自宅不動産(住んでいる家)を確保できるようになります。
このノウハウを持っている弁護士はほとんどいません。

なお,譲渡取得税はあくまでも既述のとおり被相続人の債務です。
この手続きを選択される方は,資産<負債(借金,債務)となっている場合が多いと思います。
よって,この負債(借金,債務)が増えるだけと理解すればいいのです。
この処理をするノウハウを持っている弁護士はほとんどいません。
 

② 負債(借金,債務)の金額が不明の場合に用いることができます

a 3か月の熟慮期間に調査して決断するのが原則

負債(借金,債務)の金額は原則3か月の熟慮期間内にする必要があります。
ただ,3か月の熟慮期間では,資産,借金,負債,債務を調査しきれなかった場合,3か月の熟慮期間を延長できます。延長の期間は必要かつ相当の期間で家庭裁判所に申し立てます。

なお,一度とは限りませんが,あまり何度もというわけにはいかないと思います。
 
b 熟慮期間を延長して判明した場合
 ○ 資産>負債の場合 相続を選択
 ○ 資産<負債の場合 相続放棄をお考えの方へを参照ください。
 
c 熟慮期間を延長しても判明しない場合
可能性のある選択肢としては以下になります。

ⅰ 資産>負債と考えて単純相続してしまう
 デメリット:結果的に資産<負債のとき。

ⅱ 資産<負債と考えて相続放棄してしまう 
 デメリット:結果的に資産>負債のとき。

その他相続放棄のメリットとデメリットを参照ください。

ⅲ 限定承認をしてしまう
 ○結果的に資産>負債のとき,譲渡取得税を無用に収めたことになる。
 ○結果的に資産<負債のとき,特段の不利益はない。
 
d cの評価

当事務所は限定承認のノウハウが豊富にありますので,ⅲをお勧めしています。
理由はⅰ,ⅱは所詮,賭け,博打であり,そのデメリットに比べ,ⅲのデメリットが小さいからです。

ⅰのデメリットは負債(借金,債務)を負う可能性があるため,リスクが大きすぎます。
ⅱのデメリットは資産が負債を少し上回る場合であればいいですが,資産の方が遥かに大きかったという場合は大きな損失です。
また相続放棄手続では自宅不動産(住んでいる家)などを守れないというデメリットもあります。

限定承認のデメリットは譲渡取得税が発生することですが,資産<負債のときは,負債が増えるだけなので不利益はありません。

唯一のデメリットは,資産>負債のときです。
この場合,資産が減りますので,デメリットは残ります。
しかし,譲渡取得税は計算で金額が出せます。
例えば,自宅不動産(住んでいる家)が1000万円値上がりしたというのであえば,長期譲渡で約150万円になります。
この150万円の資産の減額をどう考えるかです。

当事務所としては,ⅰ,ⅱは博打であると考えます。
減るのではなく,取得する金額が150万円減額したことは取得した財産の経費として考えれば安いものと考えます。
また,取得資産に相続税が発生するときは,譲渡取得税は相続税の計算上債務控除の対象になります。

 

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